ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3402)

 なぜ、俺様社員は転落したのか

 北嶋一郎(著)『生きぞこない …… エリートビジネスマンの「どん底」からの脱出記』(ポプラ社)を読んで、色々と思うところがあった。

 著者は、外資系IT企業のI社に勤務していたエリートビジネスマンだったが、中国のL社にPC事業ごと売却され、それを機に転職するが、転職にも失敗し、どんどん転落していく。最後は、自殺未遂をし、精神系の障害者認定を受けている。

 本書を読む限り、著者の「転落」は、決して「不運」ではなく、「必然」だと思う。

 著者はI社への勤務時代、その"策士ぶり"を存分に発揮している。それは、下記のような記述にも、色濃く溢れている。

 "男子たるもの、仕事をして出世するのが当然。その中には「J部長の秘書との情事」も含まれていたが、それも僕にとっては一点の曇りもなく「ビジネス」だった。"(P63)

 "N部長の覚えがめでたくなったことで、同僚に嫌われては意味がない。「なんだ、あいつ。部長に取り入って」ち思われたら最後だ。僕はとにかく皆の仕事を手伝った。全員平等になるように、なんと手伝った回数まで数えて慎重に事を運んだ。"(P67)

 "K部長がうちの部の予算を握っている経理部門との飲み会に呼ばれたと聞いたときは、その店を突き止め、偶然を装って合流もした。"(P71)

 "目立ちたいから。もちろん会社の発展を願ってのことではあったけど、僕のモチベーションの源は間違いなく「目立ちたい」だった。"(P79)

 "出世するためには、上司にだけかわいがられればいいわけではない。部下からも同僚からも「応援したい」と思われる人間でなければ、上司も出世はさせない。上司は自分の目より、その人間の周囲の評判のほうを信じるものだ。"(P82)

 しかし、PC事業がL社に売却され、転職してからは、一気に転落していく。

 著者は、プライベートなブログでもトラブルを起こしているが、これも不用意だ。プライベートなブログであれば、何でも書いて良いかと言えば、現実には「職場での評価」によって違ってくる。

 職場で低評価の人が、ポルシェを乗り回すブログを書くのは、余計な反感を買うだけだ。

 もちろん、有給休暇を取って、ポルシェを乗り回すのは自由だし、それを得意気にウェブに書くことも、雇用契約上は、何の問題もない。

 しかし、職場の仲間が実際にどう思うかは、全く別の問題だ。「何だ、あの野郎。ロクに仕事もできないくせに」と思われたら、周囲からの評価を落とすだけだ。

 僕自身も肝に命じていることだが、ウェブで色々書いている人は、職場では、人並み以上の成果を出す必要がある。成果を出していない人が、得意気にウェブに書き込みをしていたら、人間、どうしても本音の部分では「気に食わない」と感じる。

 会社員がウェブで匿名を用いるのは、基本的に正しい。

 失業者となり、借金にまみれ、自殺をはかり、女性に暴力をふるい、双極性障害況燭両祿下塲定を受ける。

 "首に巻いた紐を座った状態でドアノブなどにかけ、睡眠薬を飲む方法は「薬が効いて意識が飛んだ後に首が締まるから、苦しまずに寝たまま死ねる」とも[『完全自殺マニュアル』に]書かれていた。僕はその方法で死ぬことにした。"(P153)

 "僕はAの家に転がり込んだ挙句、Aにたびたび手を上げ、家のテレビやコップなどを破壊し続けた。(中略) 時には、もし彼女が被害届を出していたら、傷害罪に問われるほどの怪我を負わせたこともあった。前の彼女に対しても、そうだった。"(P172)

 "僕の病名は「双極性障害況拭廚箸いΔ發里世辰拭「障害者二級」に認定されることがあるほどの難病だ。(中略) 僕はすんなり認定され、今、財布の中には「障害者二級」の手帳が入っている。"(P173)

 この転落は、「偶然」あるいは「不運」なものだろうか。僕は、「そうではない」と思う。

 「策士策に溺れる」という言葉がある。『生きぞこない』の著者が転落したのも、「策士策に溺れる」で、究極的にはエゴイズムと自己顕示欲を制御できなかったからだと僕は思う。しかも、著者はこの原因に気付いていない。

この著者と「一緒に働きたいか」と言われれば、本を読む限り、答えは「NO」だ。それは、I社のエリート社員時代であっても、障害者認定された後であっても、一貫して「NO」。その理由は「自己顕示欲とエゴイズムを制御できていない」という一点に尽きる。

 そして、本書を読む限り、著者は、本質的には何も反省していないと思う。本書の出版で、I社の関係者がどれだけ迷惑することか。しかし、それよりも、本書を出版して「俺様の人生」を語ることを優先したわけだ。

 自己顕示欲で嫌われる人の言動の動機は、「俺様の優秀さを思い知れ」に他ならない。『生きぞこない』の本文の端々から感じるのも、申し訳ないが、「俺様の優秀さを思い知れ」という著者のエゴイズムの叫びだった。

 このような動機での発言は、見る人が見れば、すぐにわかる。僕もかつて、自覚なしに「俺様の優秀さを思い知れ」という動機で発言していたから、同じような動機での発言が、直感的にわかる。

 職場の飲み会などで「偉い人の自慢話」を聴かされるのが苦痛という人は結構いると思う。多くの人がそのことをわかっている。それにもかかわらず、ことあるごとに「俺様の優秀さ」をアピールするとは、一体、どういう了見なのか。

 どうすれば、自己顕示欲やエゴイズムを制御することができるか。解決の糸口のひとつは、「正直になること」だと思う。

 まず、「自分が評価されていないこと」とその理由を直視し、そのことを言語化して自覚する。大物プロブロガーもそうだが、自己顕示欲で嫌われる人は大抵、自覚症状すらない。

 自殺未遂までして、精神疾患で障害者認定された著者に対する言葉としては、厳し過ぎるかもしれない。しかし、自己顕示欲とエゴイズムを人間関係と両立する水準で制御しない限り、まともな社会復帰は不可能だと僕は思う。

 山田宏哉記

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