ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3404)

 「下積み10年」は正しかった

 「下積み10年」という言い方がある。20歳の頃に聞くと、それだけで意欲が萎えてくる言葉だ。

 僕にとって、20歳から29歳までの約10年間は、ずっと「不遇時代」だった。「下積み期間」と言い換えても良い。

 就職前までは、日雇い派遣や掃除屋の日々の生計を賄って、大学院に通いながら、武術の稽古をしていた。また、就職してから数年は、1日16時間を仕事と勉強に注ぎ込んだが、不本意な成果しか出せなかった。

 いつでも、自己評価の高さと客観的な評価の低さの乖離に、苛立っていた。

 29歳の終わり、震災ボランティアをしたことがひとつの転機となり、僕は少しマシな人間になった。仕事でも徐々に「手作りの成果」を出せるようになった。

 スピード重視で相当に研鑽に励んだつもりだったが、自分で納得のいく成果と、それなりの評価を得るまでに、結局、約10年かかってしまった。

 20歳の頃、「自分には才能がある」という確信があった。僕には「下積み」など不要で、圧倒的な学習速度と上達速度で、一気に頭角を現すつもりでいた。だが、実際には、その後の10年、不遇が続き、地を這いつくばることになった。

 それでも、その期間の研鑽があったからこそ、今の僕がいる。その意味では、「下積み10年」は正しかった。

 20歳の頃は、「下積み10年」などと言われると、あまりの長さに嫌気が差すものだ。だが、この期間の蓄積があるからこそ、僕は今、成果を出せるようになり、飯を食うことができている。

 とはいえ、僕は、若い人に「10年は下積みだ」と偉そうに説教するのは、間違っていると思う。これは事前にわかることではないし、誰かに教えてもらうことでもない。個人差もあるだろう。

 下積みの渦中にある時は、その瞬間を精一杯生きるしかない。「下積み10年」の価値は、後から振り返って、初めて気付くものなのだ。

 山田宏哉記

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2014.9.16 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ