ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3405)

 「肩書き先行」で考える愚かさ

 「好きなことをして、飯が食える」というのは、恵まれたことだ。

 僕は、「10年間の下積み生活」を経て、曲がりなりにも、好きなことをして、飯を食うことができるようになった。

 世の中には、「不本意な仕事」をして、生計を立てている人が多いことを思えば、とても恵まれたことだと思う。

 その上で、強く思うことがある。

 大事なのは、世の中に対して「何を為すか」だ。「何者になるか」という話は、厳しく言えば、本人の自尊心とアイデンティティの問題でしかない。

 多くの人は混同しているが、例えば、「漫画家になりたい」と「漫画を描きたい」は、同じことだろうか。一見似ているが、僕は「全くの別物」だと考えている。

 僕は、些細なことに拘っているだろうか。

 報道したいのではなく、記者やアナウンサーになりたい。音楽をしたいのではなく、アーティストになりたい。芝居をしたいのではなく、役者にやりたい。政治をしたいのではなく、議員になりたい。

 「肩書き先行」で物事を考えてしまう癖は、子どもの頃の「将来の夢」に、その元凶がある。なぜ、将来の夢を「職業名」で語るのか。この時点で、そもそもおかしい。

 要するに「単に肩書きが欲しいだけ」。このような姿勢は、働く上での「本質的な勘違い」を生んでいると僕は考えている。

 確かに、組織の中で、「肩書き先行」で、好きなことを仕事にしようとするのは、なかなか難しいと思う。なぜなら、真っ当な職業人なら、そういう人を応援する気にはならないからだ。

 「肩書きが欲しい」という話は、本人の自意識と自尊心の問題であって、公共性のある話ではない。平たく言えば、「ただのワガママ」である。応援する必要などない。

 一方、具体的な仕事をしたいという話は、組織の事業に関わることであり、同じ船に乗る者として、できる限りの支援をしたいと思う。

 僕は今、徹底して「仕事先行」で物事を考えている。「何を為すか」に集中していて、「他人からどう思われたいか」には、あまり興味がない。格好良い肩書きが欲しいわけではないし、まして威張り散らしたいわけではない。

 後から振り返れば、それで良かったと思う。

 仕事そのものに集中する場合、あまり肩書きを求めて、「戦略的」にならない方が良いと感じる。簡単に言うと、「仕事を選ばない」ことと「仕事を断らない」ことが非常に重要だ。未経験で実績がない人は、そもそも仕事を選べる立場にないし、断ったら次はない。

 そして、「面倒なこと」を引き受けて、キチンと対応していたら、時々、その中にやりがいのある仕事が混じっていたりする。

 組織は案外、フェアなものだと僕は思う。だからこそ、組織の中で働くなら、要領良く立ち振る舞おうとするのは、かえって損だと思う。

 「俺様の目標とするキャリアには関係ない」と面倒なことを他人に押し付けて、自分だけ「いいとこ取り」をしようとする人は、すぐにわかる。

 「途上国で医療活動をしたい」と言う人と、「厳しい受験勉強を突破して、医者になりたい」と言う人がいた場合、僕たちはどちらを応援するか。即答で、前者だ。

 前者は、世の中に対して「何を為すか」を考えているが、後者は「何者になるか」と自分勝手な世界で閉じている。

「地位に就きたいのか、仕事をしたいのか」は、本質的に違う。実は、多くの人は、単に地位や肩書きが欲しいだけで、仕事そのものをしたいわけではない。

 確かに、他人が羨やむ肩書きを手にするのは、競争率が高く、難しい。しかし、好きなことを仕事にするのは、意外にも競争率が低く、仕事そのものに集中すれば、さほど難しいことではないのだ。

 山田宏哉記

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2014.9.16 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ