ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3414)

 今、企業と個人の関係を問い直す

 2014年10月18日付の日経新聞で、ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏がインタビューに答えていた。

 "企業の報奨は、金銭だけでなく、新たに昇進や研究予算なども認められるというが、仕事の評価としてフェアなのは金銭だけだと思う。"(日経新聞2014年10月18日付)

 中村氏の業績そのものが素晴らしいことは、間違いないだろう。

 但し、中村氏が、会社員あるいは職業人として素晴らしい態度だったかと言えば、答えは「ノー」だと僕は考えている。それは上記の「仕事の評価としてフェアなのは金銭だけ」というコメントが象徴している。

 企業は何も研究開発だけをやっているわけではない。たとえ、ノーベル賞に値する発明をしたとしても、その発明者だけに突出した報酬を払うのは、組織としてバランスを欠く。

 例えば、営業担当者が、売上の大半を報酬として要求したら、会社は成り立たない。また、「わかりやすい成果」を出した人ばかりを優遇していては、地味な仕事で縁の下を支える人たちが腐ってしまう。

 高橋伸夫氏が『虚妄の成果主義』で書いているが、日本企業においては、仕事の報酬として、「次の仕事」が大きな位置を占めている。

 成果を出せば、「次の仕事」がやりがいのあるものとなる。僕自身も同意するが、日本企業で働く上で、これは暗黙の了解事項だ。

 中村氏の発明に対して、研究予算の拡大と昇進がなされたことは、日本企業の文脈で言えば、充分に評価していることになる。金銭より評価を重視するのは、日本企業で働く上で、割と重要なポイントだ(但し、通常、この辺はあまり明確には言語化されていない)。

 よく言われるのは、金銭的報酬は「衛生要因」という話だ。つまり、あまりに低いと勤労意欲を毀損するが、だからと言って、「高ければ高いほど、勤労意欲が高まる」ものでもない。イレギュラーな人はいるが、大筋では、金銭で人を動機付けるのは効果も薄い。

 「貢献した金額分を金銭的な報酬としてよこせ」と言いたい気持ちは、ある程度、理解できる。ただ、現実には、企業が従業員に飯を食わせることが可能なのは、一部の人が「圧倒的に過剰な成果」を出すからだ。

 日本企業では、「他の従業員を養う人」には、高い評価と重要な仕事が与えられるが、貢献に相応しい金銭的な取り分を要求すると、会社が成り立たない。他の従業員が飯にありつけなくなる。「他の従業員を養う人」は、その辺の空気を読まなければならない。

 中村氏は、能力的には紛れもなく「他の従業員を養う人」だったと思うが、その言動は「他の従業員を養う人」に相応しいものではなかったと思う。

 企業には、残念ながら、給料以下の仕事しかできない人もいる。しかし、そういう人にも、家族がいて、生活がある。過剰な成果によって、そういう人の雇用を守るのも「他の従業員を養う人」の隠れた義務なのだ。

 いずれにせよ、日本企業では、金銭的な報酬とは別に、仕事の報酬は「次の仕事」と考えられている。そして僕も、この世界をとても気に入っている。

 思うに「仕事の評価としてフェアなのは金銭だけ」と感じるなら、日本企業への就職は避けた方が良い。

 おそらく中村氏は、そもそも日本企業には向いていなかった。「どちらが正しい、間違っている」という話ではなく、単にミスマッチだった。要はそういう話であり、単にそれだけの話なのだ。

 山田宏哉記

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