ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3434)

 僕たちは"量産型人材"なのか

 常見陽平(著)『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)を読んだ。

 「売れた」という意味では良い本なのかもしれない。内容的に大きな事実の誤りがあるわけでもない。

 それでも、まっとうな職業人にとっては、本書は"有害"だと思う。その理由を説明したい。

 まず、著者の言う「ガンダムのジム」とは、ごく大雑把に言えば、"量産型人材"のことだ。"普通の人"と言い換えてもいい。

 そして、本書の中核的なメッセージは、「世の中は普通の人が動かしている。普通であることに誇りを持とう。凄い人にならなくてもいい」というわけだ。

 著者が「意識の高い人」を小馬鹿にする芸風を取っていることを想起すれば、イメージしやすいだろう。

 一見、間違ったことは言っていない。いや、事実関係としても、どちらかと言うと、正しいだろう。

 「しかし」と僕は思う。果たして、こういう人と一緒に働きたいと思うだろうか。

 僕は、そうは思わない。

 率直に言うと、僕は自分のことを「特別」だと勘違いしている。要は「痛い人」だ。嘲笑していただいて、構わない。しかし、この「勘違い」がなければ、今の能力を身に付け、成果を出すことはできなかった。

 若い頃は、多少強引にでも、「自分は特別だ」という意識を持って、限界に挑戦し、実務能力を引き伸ばした方が、結果的に仕事の満足度も高くなると僕は感じている。

 「正確な事実認識」で平凡な成果しか出せない人と、「勘違い」によって卓越した成果を出す人の、どちらが素晴らしいか。断然、後者だ。

 デモティベート(demotivate)という言葉がある。要は「やる気を失わせる」という意味だ。周囲をデモティベートする人は、発言内容そのものは正しくても、仲間と仕事をする上では、有害な存在になる。

 関連して言えば、"意識の高い人"を嘲笑していい気になるのは、典型的な反知性主義だと思う。

 組織で働き始めた若者が、反知性主義に落ちる理由は、わからなくもない。

 実務経験が浅かった頃、僕もビジネス書を読んで、それを実務で使おうとして、痛い目に合ったことがある。新人の頃は、「生意気だ」と思われないように、なるべく勉強していることを隠して、バカな振りをしていたものだ。

 もちろん、世の中であれ、仕事の現場であれ、綺麗事だけでは済まない。それはわかっている。しかし、「所詮、現実はこんなものだよ」などと、したり顔で語るのは、周囲をデモティベートするだけだと思う。

 事業あるいは自分の仕事について、理想的な"あるべき姿"を定義し、その目標に向かって、必死で邁進するのは、実務能力を伸ばす上で、とても大切なことだ。このサイクルを回す経験こそが、実務能力を引き伸ばす。

 仕事を通して、能力を伸ばすためには、「背伸び」をして、「挑戦的な課題」に取り組むことが欠かせない。

 「俺は"普通の人"だから、このままでいい」などと現状に甘んじていれば、いずれ後悔することになるだろう。

 僕たちは、決して"量産型人材"ではない。「普通の人」なんて、どこにもいない。

 少なくとも、僕の仲間には「量産型人材」や「普通の人」など、ひとりもいない。皆、固有の人生を生きる特別な存在だ。

 これは客観的事実の話というより、自分の人生を歩む覚悟の問題だ。

 シニカルにデモティベートの毒を吐くのも、ひとつの生き方ではある。

 しかし、たとえ勘違いであったとしても、「自分は特別な存在だ」と信じ、関係を持つ人に対しても、「あなたは特別な存在だ」と信じた方が、確実に人生の彩りは豊かになる。

 自分自身のことについて言えば、これで充分だし、これだけで充分なのだ。

 山田宏哉記



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2015.1.17 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ