ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3445)

 君は人殺しのツラが見たいか

 実生活で「個別の殺人事件は報道する必要がない」という話をする機会があった。

 人権云々の話ではなく、殺人事件の報道が、他人の不幸を消費するエンターテイメントと化しているからだ。最後に「ご冥福をお祈りします」とさえ言えば、他人の不幸を娯楽や飯の種にしても、許されると思っている。それが気に食わない。

 殺人事件に関して、報道価値があるとすれば、それは殺人の発生件数や発生場所、発生時刻などの統計的な事実の方だろう。これなら、視聴者や読者が、日常の危険を避けるのに役立つ。

 しかし、おそらく人々が求めているのは、娯楽としての「不幸の物語」であり、統計的な情報ではないはずだ。

 編集者・斎藤十一の伝説的な台詞に「人殺しのツラが見たくないのか」がある。

 「ウケケケケ、俺は娯楽として、人殺しのツラが見たいんだ!」と自覚して割り切っているなら、それは構わない。もはや、他人がとやかく言うことではないだろう。

 歴史を振り返れば、人間は不謹慎で残酷なことをしてきた。

 例えば、古今東西、公開処刑は見世物であり、大衆にとっての娯楽であった。一般庶民が、本音では「ウケケケケ、人殺しが処刑される様子を見物できて、満足満足」と感じていたとしても、それが一方的に悪いとは言わない。

 しかし、人間である以上、「それでいいのか」という問題提起は、強くしておきたい。

 近代になり、公開処刑をする国が減ってきたのは、動物の本能よりも、「処刑を見世物や娯楽にするのは、あまりに野蛮」という人間の理性の方が、徐々に優位になってきたからだと思う。そして僕は、この方向性は間違っていないと断定する。

 その上で敢えて問いたい。

 殺人事件の詳細(犯行動機や殺害方法、被害者・加害者の氏名/家庭環境/顔写真など)をTV、新聞、雑誌で大々的に報道するのは、果たして社会正義に適うことなのか。それは何としてでも大々的に報道すべきことなのか。

 単に僕が不見識なだけかもしれない。殺人事件の詳細を報道することに正義があるなら、どういうロジックで世の中に良い影響を与えるのか、ぜひ教えていただきたい。

 殺人事件の報道では、しつこいくらいに「ご冥福をお祈りします」という言葉を見聞きする。

 やっぱり内心、後ろめたいからだろう。他人の不幸を娯楽や飯の種にしていることが。本来は必要のない報道であることに、皆、薄々は気付いているはずだ。

 君は人殺しのツラが見たいか。殺人事件を娯楽として消費したいか。

 人は易きに流れる。それでも、「人間の理性」の側に賭けるなら、ここはたとえ嘘を付いてでも、「ノー」と言い切るべきではないか。僕は今、そんな風に感じている。

 山田宏哉記



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2015.3.14 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ