ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3463)

 「高級知識」を持った人生の敗北者たち

 世の中に「高級知識」が必要な仕事は、そう多くない。

 また、「高級知識」が必要な仕事は競争率が高く、誰もが就けるわけではない。アカデミック・ポストなどは、その典型例だ。

 運良く、「高級知識」が必要な職に就ける人は良いが、競争に敗れ、単純労働者になるのは、辛いものがある。いくら「高級知識」を持っていても、職がなければ、掃除屋をするしかない。

 「人手不足」と言われるが、需要があるのは、文字通り、「人の手」であり、「人の頭脳」ではない点に、注意が必要だ。

 人手不足なのは、大抵、工場のラインで生産に従事したり、建築現場で資材を運ぶ人であり、オフィスで企画や戦略を立案する人ではない。

 極端に言えば、機械ではイチゴのヘタを取れないから、「人手が必要」というわけだ。

 経済合理性だけで判断すれば、数千万円分の教育投資と十数年に渡る勉強をしたにもかかわらず、ニートやワーキングプアになるのは、「人生の失敗」だと言わざるを得ない。
そこで思い出すのは、ネットには「高級知識」が溢れていることだ。

 ネットで「高級知識」を振り回す動機のひとつは、「教育投資の割に、手にした仕事が単純で不満」だからだと僕は思う。

 ウェブが真に革命的だったのは、「高級知識」を持っているにもかかわらず、それに見合う職に就けなかった人々に、「表現活動の場」を与えたことだ。

 昼間は日雇い労働者として糊口を凌いでいても、ウェブの世界では「高級知識人」だ。ウェブは「高級知識」を持つ単純労働者たちを救済した。

 僕自身、少なくとも、人生の一時期においては、「高級知識を持った、人生の敗北者」だった。英語の原書を読み、論文やレポートを書きながら、日雇い労働者や掃除屋として、社会の底辺で這いつくばっていた。

 従って、ウェブで知識を披露することで、お金を稼ぐのは、本質的に難しい。

 なぜなら「高級知識を持った人生の敗北者たち」が、無料で高級知識を披露する、ダンピング活動をしているからだ。彼らにとって、ウェブで高級知識を披露することは、「自己の存在証明」そのものであり、経済合理性を超越している。

 高学歴ワーキングプアの人は、経済合理的には「人生の失敗」と言えるが、Wikipediaの編集などを通して、「人類の知識の総量」を増やす方向に貢献することができる。

 ウェブは「偉大な救済装置」なのだ。

 本来、数千万円分の教育投資と十数年に渡る勉強に見合う職に就けないのは、「残念でした」では済まない程に深刻な問題だ。

 しかし、仮に自分がそういう敗北者になったとしても、ウェブの中では、高級知識を披露し、高級知識人として振る舞うことができる。

 「高級知識」を持った人生の敗北者たちは、ウェブという活躍の場があるからこそ、最低限の自尊心を保つことができ、電車にダイヴするのを踏み止まることができるのだ。

 山田宏哉記



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