ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3466)

 僕は「給料泥棒」だった

 千田琢哉(著)『勉強の技法』(アイバス出版)に、とても身に覚えのある話があった。

 "意外なことに、窓際社員にはとても頭がよくて議論好きの人が多い。「どうしてあんなに優秀な人が……」と思うかもしれない。難しい話ではなく、社内外から嫌われて干されただけの話だ。"(P161)

 僕自身、得意気に他人の粗探しをして、自己アピールをしていた時期があったと、正直に認めなければならない。

 率直に言って、給料泥棒だった。実際に給料泥棒と言われたこともある。

 ケアレスミスや矛盾の指摘内容そのものは間違っていなかったが、申し訳のないことをしたと反省している。

 ゼロベースで企画を考え、それを実現するのと、他人の成果物を批評するのでは、負荷と難易度が全く違う。

 だからこそ、自分自身がそれなりの成果を出していないと、ついつい「他人の粗探しをして、それを公然と指摘すること」で自己アピールをしたくなる。組織で働く上で、こういう態度は決定的に信用を失うのだが、僕にもその自覚が足りなかった。

 どうしても、他人の成果物の粗探しをするなら、「自分自身の成果と実績」とのバランスが重要になる。成果や実績のない人がやると、感情的には「何だ、この野郎!」となる。

 建前では、成果を出していない人に、ドヤ顔でミスや矛盾を指摘されても、謙虚に「ご指摘ありがとうございます」と答えるべきだ。組織としても、ミスの検出ができて、望ましい。

 しかし、本音ベースでは「何だ、あの給料泥棒!ふざけるな」と反感を買っている。これが人間世界のリアリティだ。

 給料泥棒が、ドヤ顔で他人のミスや矛盾を指摘すると、その指摘内容の妥当性とは無関係に、強い違和感が生まれる。

 本音ベースで言えば、成果と実績を出していない人には、「そもそも、発言権がない」と理解するのが、妥当だと思う。

 非公式のルールでは、成果と実績を出していない人は、他人のミスを指摘することすら、許されていない。

 給料泥棒が他人のミスを得意気に指摘する違和感。公然と言う人はいないが、要は「あなたに発言権はない。退場しなさい」と思われるわけだ。

 今、僕が問題にしている「発言権の有無」は、もちろん非公式のルールであり、公式のルールとして定めている組織は、まずないと思う。

 しかし、組織においては、「何を言うか」より「誰が言うか」が重要なのは周知の事実であり、成果や実績がない給料泥棒には、実質的に発言権もない。

 「会社に評論家はいらない」とは、よく言われる。

 ここで言う「評論家」とはどういう意味か。「自分自身の成果が小さく、他人の粗探しをする比率が高い人」と理解すれば、スッキリ理解できるのではないだろうか。

 組織においては、実質的に発言権がないのに、他人のミスや矛盾を公然と指摘する人を「評論家」と呼び、これをもって、「会社に評論家はいらない」と表現するわけだ。成果を実績があり、実質的な発言権を持つ人なら、「評論家」と呼ばれることはない。

 僕は今、ようやくゼロからの企画を実現できるようになり、給料分以上の仕事もできるようになったと思う。そして、今では、「給料泥棒」や「評論家」と言われることも、なくなった。

 ただ、今にして思うと、僕は給料泥棒時代にこそ、組織と人間の裏側とリアリティを学ぶことができた。その意味で、給料泥棒だった僕をクビにしなかった勤務先には、大変感謝している。

 山田宏哉記



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2015.7.12 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ