ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3476)

 なぜ、"反人道性の自覚"が大切なのか 

 表現者というのは、宿命的に反人道的なところがある。

 そもそも、人道的とは何か。それは「人の幸せを願い、人の不幸を悲しむこと」だと僕は定義する。

 これは藤子・F・不二雄が、しずかちゃんのパパの口を借りて言った台詞だ。

 曰く「のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね。」(「ドラえもん のび太の結婚前夜」)。

 必然的に、人の幸せを妬み、人の不幸を喜ぶような態度は、「人道に反する」つまりは「反人道的」だということになる。

 表現者は、大災害が起きると、本音では「自分の名前を売るチャンスだ!」とか「これは売れるネタだぞ!」などと考えてしまう。

 もちろん、常識があれば「被災者のご冥福をお祈りします」とか「被災地の1日も早い復興を心よりお祈りします」とか、表面的にそういうことは言う。「名を上げるチャンスだ!」などと公言する人はいない。

 だが、東日本大震災の後、表現者たちがどう行動したかを見れば、本音は明らかだ。

 僕自身、正直に認めなければならない。

 僕がかつて、震災ボランティアをしたのは、功名心であり、売名行為であり、被災地の被害を自分の眼で見る口実が欲しかったからだ。更に、仕事で成果が出せなくて、何か社会のために役立っている実感が欲しかったわけだ。

 「私には、被害者の悲惨な現状を、人々に伝える義務がある」という一見、崇高な信念。実は、その正体は、功名心だったり、承認欲求だったり、他人の不幸を癒しにする感情だったりするのではないか。

 表現者は、人の生死を作品にしたり、エンターテイメントにしたりする。だから、アクションや推理小説では、物語を盛り上げ、観客や読者のカタルシスを満たすために、次々と人が死ぬ。

 やはり僕は、表現者は「他人の不幸で飯を食う」という反人道性を自覚すべきだと思う。

 「俺様は立派な人格者だ」という前提で始まる表現や作品には、どうも違和感を感じることが多い。

 そういう表現者は、おそらく人間の機微や矛盾を感じ取る繊細さ(=表現者にとって、最も重要な資質だ)を持ち合わせていない。生身の人間が関わることは、そう簡単には割り切れないのだ。

 更に言えば、これは表現者に限った話ではない。

 人間としては、のび太のように、素直に人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができるなら、それが一番だ。残念ながら、それができないなら、せめて自らの反人道性を自覚することが、セカンドベストではないだろうか。

 言い換えれば、善良で立派な人格の市民には、「反人道性の自覚」は必要ない。「反人道性の自覚」は、あくまで、つい他人の幸せを妬んだり、他人の不幸で飯を食う人のための、「多少はマシな道徳基準」だ。

 有名なアイヒマン実験などを見ればわかるように、本当の悪人には「反人道性の自覚」がない。だから、他人の幸せを妬む表現者や小市民にとっては、反人道性の自覚を持つことで、「本当の悪への転落」を防ぐこともできる。

 僕だって、立派な人格ではない。「生活保護受給者の『転落人生』」みたいな他人の不幸話があれば、ついつい読んでしまう方だ。

 但し、そういう記事を読むときは、「この人と比べれば、自分はマシ」と感じるためだと、明確に意識する。

 本音の部分で、人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができなかったとしても、それは仕方がないと思う。

 但し、そのような時は、自分の中の反人道性を自覚することが、最低限の礼儀であり、モラルだと僕は考えている。

 山田宏哉記



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