ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3481)

 ズル賢いと、組織で生き残れない 

 佐藤優氏の「組織で生き抜く極意」(「新潮45」で連載)を読んでいて、勉強にはなるのだが、同時に根本的な違和感を感じた。それは「ズル賢くなければ、組織で生き残れない」という考え方についてだ。これは非常に重要な話なので、掘り下げて考えたい。

 まず結果だけを見れば、周知の通り、佐藤優氏は、外務省という組織に残ることができなかった。それは「ズル賢さが、足りなかった」からなのか。

 僕はむしろ、逆ではないかと思う。あれこれと「策を弄しすぎた」が故に、逆に疎まれてしまったのではないだろうか。

 組織人の評価は、極端に言えば、「この人と一緒に働きたいか」で決まる。これだけで決まると言っても良い。能力やスキルそのものは、さほど重要ではない。能力やスキルがあると、「この人と一緒に働きたい」と思われる可能性が高まるので、能力やスキルも重視されているわけだ。

 「この人と一緒に働きたい」と思われるためには、何より「信用」が大切だ。「約束を守る」とか「嘘を付かない」とか、そういう細かい積み重ねが「信用」を生む。そう考えると、「ズル賢さ」は、むしろ信用を損ねることの方が多い。

 例えば、会社経費で出張した際、キャッシュバックのあるホテルに宿泊し、キャッシュバックを懐に入れる行為。明確な規則違反と言い切れないケースが多いだろうから、これをやるのは「ズル賢い」。

 但し、公式の処罰はなくとも、本人は「信用」を失う。そして、少なくとも僕なら、「この人とは一緒に働きたくない」と判断する。

 内田樹氏が『内田樹の大市民講座』(朝日新聞社)でこの辺りの機微を正確に表現しているので、紹介したい。現役の実務家でも、時々このあたりに無自覚で、信用を落とす人がいる。

 "実際には採否の基準は、個人の能力ではない。あらゆる組織は集団のパフォーマンスを向上させる人を求めている。組織が求めているのは「一緒に働いている人たちの気分をよくしてくれる人」である。それは必ずしもいわゆる「能力」とは相関しない。" (P117)

 "競争相手を押しのけようと必死になる学生たちは、その競争マインドそのものによって面接官の評価を下げているのだが、誰もそのことを彼らに教えない。" (P118)

 経験上の確信を言えば、人間、素直が一番である。思うに、仕事や人間関係を、策を弄したり、スキルを駆使して乗り切ろうとする発想そのものに、大きな落とし穴がある。

 「組織内で、ズル賢く立ち回ろう」とする人は、傍目にすぐわかる。本人の意図とは逆に、評価を落としてしまう。また、中長期的に見ると、佐藤優氏自身がそうであったように、キャリアにも恵まれないことが多い。

 佐藤優氏の「組織で生き抜く極意」に従えば、利害関係者と巧みに駆け引きし、厄介な仕事や手間のかかる部下は他の人に押し付けるのが、賢明な振る舞いになりそうだ。

 結局のところ、人を育てるのは、「厄介な仕事」や「手間のかかる人間関係」だったりする。この手のことを他人に押し付けて、「要領の良い振る舞い」と悦に入る人は、将来、後悔することになると思う。

 無意識のうちに「ズル賢くなければ、組織で生き残れない」と考えている人は結構いると思う。

 しかし、僕はむしろ、逆を言いたい。「ズル賢いと、組織で生き残れない」と。

 山田宏哉記



【関連記事】
僕は「給料泥棒」だった (2015.7.12)
あの企業のあの人は単なる同姓同名かもしれません (2015.7.11)
クビになったら、嫌ですね! (2015.5.12)
世の中をフェアな場所にする。そのために格闘する (2015.2.15)
仕事の目的は「猿山のボスになること」なのか (2015.2.9)
他人の不幸を嘲笑する自己責任論 (2015.2.7)
読書の肝はリズムと精神衛生にあり (2014.12.29)
「言い訳の達人」の正体 (2014.10.26)
今、"奴隷"たちに教えるべきこと (2014.10.26)
ドラッカーに学ぶ社内ニート対策(2014.10.13)
役立たずの"アイデアマン"に告ぐ (2014.10.13)
先輩が後輩をいじめる本当の理由 (2014.10.5)
人生の先輩曰く「俺様はこんな仕事をやる人間じゃない」 (2014.10.2)
「俺様語り」からの卒業(2014.9.27)
「下積み10年」は正しかった(2014.9.23)
なぜ、俺様社員は転落したのか(2014.9.15)
「意識が高い人」とは、どういうことか(2014.9.13)
"腐った世の中"と"愚かな一般大衆"を見下すあなたへ(2014.9.1)
僕たちが生まれた時、世界はもう完成していた(2014.8.16) "寛容"は、教育と訓練の賜物である(2014.8.10)
炎上に宿る"異様な情熱"の正体(2014.8.8)
チームワークに逃げるな(2014.8.2)
「仲間」と認められる人、認められない人(2014.7.26)
「今、解決すべき問題」と実務という試練(2014.7.3)
大物プロブロガーの失敗に学ぶ仕事術(2014.6.28)
大物プロブロガーは、「お荷物社員」だった(2014.6.27)
スポーツ観戦の本質と人生を諦めた一般大衆(2014.6.21)
傲慢と謙虚についての誤解(2014.6.16)
なぜ、「嫉妬」を「義憤」にすり替えるのか(2014.6.13)
「憧れの仕事」をする者の義務(2014.6.9)
「憧れの仕事」をする上での注意点(2014.6.7)
僕がNHKオンデマンドを解約した理由(2014.5.24)
今、「普通の働き方」を考える(2014.5.24)
決着:ネットショップVSリアル店舗(2014.5.18)
もし、世帯年収355万円で新築マンションを購入したら (2014.5.11)
東京に住むのは合理的な判断か (2014.5.10)
シェアハウスに住むのは合理的な判断か (2014.5.6)
情報弱者のための家電量販店 (2014.5.2)
大物プロブロガーの誤算と敗因 (2014.3.22)
コストとリターンで学ぶ商売の基本 (2014.3.15)
自慢話をするなら、"迷惑料"を払うべし (2014.3.14)
大物プロブロガーが本当に伝えたいたった1つのこと (2014.3.4)
時間を売るポジションと人材マーケットの論理(2014.3.1)
有料メルマガにみるドヤ顔ノマドの限界(2014.2.24)
「雇用のミスマッチ」を考える(2014.2.22)
「勝ちが勝ちを呼ぶ、負けが負けを呼ぶ」という構造(2014.2.20)
なぜ、会議に貢献できないのか(2014.2.13)
出張で成果を出す(2014.2.10)
プロジェクトで成果を出す(2014.1.25)
長時間残業が減らない本当の理由(2014.1.11)
仕事がなくて暇な会社員(2013.6.30)
「上司に相談します」が口癖の担当者(2014.2.1)
個人主義者は会社勤めできるか(2014.1.26)
日雇い派遣に学ぶプロジェクトの本質(2014.1.18)
誰が"面倒な雑用"をするべきか(2013.12.30)
タクシーに未来はあるか -業界復活の切り札-(2013.12.21)
TV電話が普及しない本当の理由(2013.12.7)
就職活動の勝敗は10歳の頃に決まっている(2013.10.25)
『ちびまる子ちゃん』で学ぶ「教室内カースト」(2013.10.20)
なぜ、日本人の7割には中学レベルの知識もないのか(2013.9.22)
勤労の美徳と資本主義の強欲 (2013.9.21)
ウェブへの上場と不特定多数による評価 (2013.9.16)
仕掛けと手仕舞いの仕事論 (2013.8.31)
"この世にいらない人間"と動物的本能の暴走 (2013.8.20)
人間的魅力の効用と限界 (2013.7.28)
勤勉という美徳の終わり(2013.6.30)
勉強で得られる知識は、価値が低い(2013.6.22)
仕事が好きな人、嫌いな人(2013.6.1)
仕事に"専門的な知識と能力"は必要か(2013.4.27)
ビジネスでは、あまり努力しない方が良い理由(2013.4.20)
誰が「腐った人材」を養うのか(2013.4.13)
「パンを分け合う仲間」としての会社(2013.3.30)
なぜ、あの人は「本を読むバカ」なのか(2013.3.26)
「やればできる」の仕事論(2013.3.23)
なぜ、ユニクロの離職率は高いのか(2013.3.16)
若者よ、貯金は止めた方が良い(2013.3.12)
英語公用語化の真意(2013.3.9)
薄給の時代 、副業の損得勘定(2013.3.2)
株で勝つのが難しい理由 (2013.3.2)
残業を良しとする"村の論理" (2013.2.24)
お金を稼ぐ力、組織を泳ぐ力(2013.2.16)
「みんな」という名の不審人物(2013.2.9)
リスクヘッジとしての株式投資(2013.2.2)
勤労の国の幸福なサラリーマンたち (2013.1.27)
公務員の"駆け込み退職"騒動の本質(2013.1.26)
株式投資の「究極の目標」とは何か(2013.1.23)
シャープ株の売買で気付いたこと(2013.1.17)
"試練の場"としての株式投資(2013.1.14)
中村淳彦(著)『職業としてのAV女優』覚書(2013.1.4)
読書の費用を回収できるか(2013.1.4)
いかに「読むべき本」を確保するか(2013.1.4)
"紙本主義"の終わりとアマゾンのキンドル生態圏(2013.1.1)
信仰告白のビジネスモデル (2012.12.29)
iPhoneの防水ケースと家電量販店の終わり(2012.12.26)
なぜ、デートでサイゼリヤに行ってはいけないのか?
(2012.12.22)
ペニーオークション詐欺の教訓(2012.12.22)
汗で稼いだ一万円、投資で稼いだ一万円(2012.12.19)
実務に活かす株式投資(2012.12.15)
アウトソーシング時代の働き方(2012.12.8)
「飽きないこと」を仕事にする(2012.12.2)
ビジネスに活かす優先的選択(2012.11.27)
もしも世界が男女10人ずつの高校の教室だったら
(2012.11.25)
"ホームレス転落"という悪夢 (2012.11.24)
映画『シルク・ドゥ・ソレイユ』に学ぶ人材配置 (2012.11.18)
シュートを打つ人、パスに逃げる人 (2012.11.17)
若さゆえの飢餓感 (2012.11.17)
動物王国としての実社会 (2012.11.11)
人生を語る不誠実さ (2012.11.11)
映画『009 RE:CYBORG』覚書(2012.11.4)
なぜ、経歴を詐称するのか(2012.11.3)
愛は地球を救えない(2012.10.24)
労働貧困層と生活保護(2012.10.22)
ルサンチマンのある人生(2012.10.18)
世界は"不本意な職業"で溢れている(2012.10.15)
不本意な職業を受け入れる(2012.10.13)
僕たちは「格差社会」を望んだ(2012.9.24)
「人間好き」のファシズム (2012.9.17)
強者はデモに参加するか(2012.9.15)
撤退戦としての介護(2012.9.1)
「仲間外れ」の構造(2012.6.26)
反知性主義の国・日本(2012.6.24)
日本人の7割には、中学の教科書レベルの知識もない
(2012.6.23)
読書を実務に活かす暗黙のプロセス (2012.6.23)
教職に逃げる大人たち (2012.6.21)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)

2015.10.18  記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ