ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3492)

 下段者の自覚が身を救う 

 プロフェッショナルの世界には、「下段者に上段者の力はわからない」という格言がある。これは本当にその通りだと、今になって思う。

 下段者(=実力の話であり、地位や立場の話ではない)が上段者に持ちかける依頼や相談事。その中には、正直、「筋が悪い」ものが少なくない。上段者は、そういう案件を適当に「流す」のだが、これが下段者にはわからない。そのため、下段者は「あの人はいい加減だ」などと吹聴したりする。

 僕が、正真正銘の下段者だった頃、今思えば、筋の悪い依頼をして、それを適当に流されて、「あの人はいい加減だ」という思いを抱いたことがあった。しかし、今思えば、間違っていたのは、僕の方だった。たったこれだけのことだが、これに気付くのに、約5年の研鑽と修錬が必要だった。

 組織の中で、「あの人はいい加減だ」という悪口を吹聴する人は、地位や立場に関係なく、下段者(=実力が低い)であることが多い。自分が下段者で、筋の悪い話をしているから、上段者が適当に流しているだけだと気付かない。

 仕事の成果や評価は、「上段者と一緒に仕事ができるか」で決まる部分が大きい。だが、自分が下段者のままだと、上段者には、まともに相手にして貰えない。

 組織人には「上司(=レポートライン)を通して言ってくれ」という定番の言い方があるが、振り返ると、このフレーズを使うのは、大抵、「筋が悪い話」で、依頼者が下段者である場面のように感じる。というのは、上司の重要な役割のひとつは、筋の悪い下段者から、部下を守ることですからね。

組織内のインフォーマルなコミュニティでは、上段者は上段者同士でつながり、下段者は下段者同士でつながる傾向がある。組織で仕事をするなら、上段者同士のコミュニティ(=これはインフォーマルなものだが)に入れてもらうのが重要だ。

 上段者同士のインフォーマルな会話では、「一緒に上手いことやって、ボーナスを増やそう!」という類の話をしている。そこに、筋の悪い下段者がやってくると、「上司を通して言ってくれ(=あなたと仕事をするのは嫌だよ)」と突き放す。さすがにこれは誇張しているが、あながち嘘ではない。

 上段者のインフォーマルなコミュニティで肝になるのは、「雑談ができる間柄」ということだと思う。下段者は、上段者と業務上の会話はできても、有益な雑談をすることができない。

 建前を言えば、雑談より業務上の会話の方が重要なのだが、本当の本当は、雑談の方が重要だ。下段者が会議で提案するレベルの話を、上段者は雑談でしている。なぜ、上段者が雑談で済ますことを、下段者はわざわざ会議の場で提案するのか。それは、信用がないために、雑談の相手がいないからだ。

 会議好きに下段者が多い理由は、信用がない人は、公式の場を設定しないと、同僚とコミュニケーションを取ったり、情報を入手する機会が得られないからだ(=雑談の輪に入れない)。これは無駄そのものだが、当然、下段者はこの構造に気付かない(この自覚があるなら、もはや下段者ではない)。

 上段者は、雑談で得たアイディアを元に、「それは面白そうだ、とりあえずやってみよう」とやってしまう。それで顕著な成果が出れば、公式の成果にする。一方、下段者は会議で「こうすべきです」と提案するが、信用がないので却下される。そして、「うちの会社はバカばかりだ」とヤケ酒を飲む。

 僕も未だ下段者だが、自分が下段者であり、それ故、上段者に相手にして貰えないことがあるのは、重々承知している。たとえ、同じ会社の仲間であっても。傍目には、年功序列の日本企業であっても、この辺の人間関係は結構シビアだ。これは、人事評価が固定化しやすい理由でもある。

 自分が下段者だと自覚すること。この自覚が身を救うことは、思いの外、多いと僕は考えている。

 山田宏哉記



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