ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3501)

 「上流の仕事」をするための条件  

 細谷功(著)『問題解決のジレンマ』(東洋経済新報社)で上流の仕事と下流の仕事が以下のように対比されている。

 "個人の能力に依存する上流では、いかにして個人の能力を発揮できるかが重要であるのに対して、多数の人間が効率的に働くことが求められる下流の仕事では、個性を押し殺してでも組織のパフォーマンスを最大化することが最優先となる。"

 "上流では作業分担も決まっておらず、常にフレキシブルな姿勢が求められるが、下流では割り当てられた役割から安易に逸脱することは組織の秩序の観点からも望ましくないし、ルールを守るコンプライアンスの姿勢が強く求められる。"(P111)

 どうせやるなら、上流の仕事をやりたい。そう考えるのは自然なことだし、正直、僕自身もそう感じている。

 だが、上流の仕事は、希望者の数は多いが、ポジションの数が少ない。だから、下流の仕事から上流の仕事に移るためには、能力や実績を認められ、ライバルとの競争に勝たなければならない。

 わかりやすい例を言えば、国王や大統領は1人でいいが、介護職員や建築現場の作業員は、とにかくたくさん必要だ。

 そして、「とにかくたくさん人を集めろ」と、十把一絡げで扱われてしまう仕事をするのは、一度しかない人生を生きる人間として、辛いものがある。

 上流の仕事に携わるためには、まず「どの会社に入社するか(したか)」が重要になる。例えば、高層ビルの建築プロジェクトがあるとして、「設計事務所」に勤めるか、「ゼネコンの5次下請け会社」に勤めるかでは、当然、仕事内容は変わってくる。

 設計事務所の立場で、高層ビル建設に携わるなら、おそらくはクリエイティブな発想が重要になる。例えば、「地域や街並みと調和する空間設計」みたいな抽象的なコンセプトを、形にするのは、やりがいのある仕事と言えるだろう。

 一方、「ゼネコンの5次下請け会社」の立場で、高層ビル建設プロジェクトに関わるとどうなるか。おそらくは、「安全第一」の肉体労働の仕事であり、「バカ野郎、早く工具持って来い!」と怒号が飛び交う世界である。クリエイティブな発想などは、端から求められていない。

 今、建築業界では人手不足と言われているが、それは決して、「建築物のデザイン/設計をする人材が不足している」という意味ではないはずだ。「安全第一」の作業現場で、決められたことを、決められた通りに行う、手足となる人材が足りないのだ。

 僕も、日雇い派遣をしていた頃、建築中のビルで作業をした経験がある(今思えば、貴重な体験だ)。社会の掃き溜めで生きているような人間が掻き集められた、殺伐とした空気。こういう環境で働きながら、仕事に誇りややりがいを感じるのは、相当に難しいと思う。

 「何やっているんだ、この野郎!」「ボーッと突っ立っているんじゃねえ」など、日雇い派遣時代、怒鳴られたことは、数知れず。自分が「社会のクズ」であると、痛切に感じたものだ。その経験のひとつひとつを、今でも時々、苦い記憶として思い出す。

 今思えば、日雇い派遣の連中をやたら怒鳴っていた社員たちは、自分たちの仕事の不遇感を、八つ当たりで解消していたのだと思う。立場の弱い下請け会社に入社してしまうと、たとえ社長になっても、やりがいのある仕事はできないかもしれない。この点には、注意が必要だ。

 2:8の法則に従えば、上流の事業を手がけている会社は、おそらく全体の2割程度だろう。

 会社として、上流の事業を手がけていても、細かく分けて見れば、大抵は、「上流の仕事」と「下流の仕事」がある。下流の仕事が不本意なら、機会があるごとに、自分の希望をアピールすることは、必要だ。能力と実績が高まるほど、希望が叶う確率は高くなる。

 更に、上流の事業を手掛ける会社の中で、上流の仕事をしたいなら、思うに「社内で上位2割のパフォーマンス」を発揮することが求められる。一般に、組織は2割のハイパフォーマーの成果で、全体の8割を賄っている。この2割が従事するのが、上流の仕事だ。

 結局のところ、「上流の仕事」に就くための条件は、割と単純(「難易度が低い」という意味ではない)で、「上位2割の会社に入社し、その中で上位2割のパフォーマンスを発揮せよ」ということに尽きる。すなわち、全労働者の上位5%に入ること。

 この結論のわかりやすさ、我ながら、感動的ですらある。

 山田宏哉記



【関連記事】
僕は「給料泥棒」だった (2015.7.12)
あの企業のあの人は単なる同姓同名かもしれません (2015.7.11)
クビになったら、嫌ですね! (2015.5.12)
世の中をフェアな場所にする。そのために格闘する (2015.2.15)
仕事の目的は「猿山のボスになること」なのか (2015.2.9)
他人の不幸を嘲笑する自己責任論 (2015.2.7)
読書の肝はリズムと精神衛生にあり (2014.12.29)
「言い訳の達人」の正体 (2014.10.26)
今、"奴隷"たちに教えるべきこと (2014.10.26)
ドラッカーに学ぶ社内ニート対策(2014.10.13)
役立たずの"アイデアマン"に告ぐ (2014.10.13)
先輩が後輩をいじめる本当の理由 (2014.10.5)
人生の先輩曰く「俺様はこんな仕事をやる人間じゃない」 (2014.10.2)
「俺様語り」からの卒業(2014.9.27)
「下積み10年」は正しかった(2014.9.23)
なぜ、俺様社員は転落したのか(2014.9.15)
「意識が高い人」とは、どういうことか(2014.9.13)
"腐った世の中"と"愚かな一般大衆"を見下すあなたへ(2014.9.1)
僕たちが生まれた時、世界はもう完成していた(2014.8.16) "寛容"は、教育と訓練の賜物である(2014.8.10)
炎上に宿る"異様な情熱"の正体(2014.8.8)
チームワークに逃げるな(2014.8.2)
「仲間」と認められる人、認められない人(2014.7.26)
「今、解決すべき問題」と実務という試練(2014.7.3)
大物プロブロガーの失敗に学ぶ仕事術(2014.6.28)
大物プロブロガーは、「お荷物社員」だった(2014.6.27)
スポーツ観戦の本質と人生を諦めた一般大衆(2014.6.21)
傲慢と謙虚についての誤解(2014.6.16)
なぜ、「嫉妬」を「義憤」にすり替えるのか(2014.6.13)
「憧れの仕事」をする者の義務(2014.6.9)
「憧れの仕事」をする上での注意点(2014.6.7)
僕がNHKオンデマンドを解約した理由(2014.5.24)
今、「普通の働き方」を考える(2014.5.24)
決着:ネットショップVSリアル店舗(2014.5.18)
もし、世帯年収355万円で新築マンションを購入したら (2014.5.11)
東京に住むのは合理的な判断か (2014.5.10)
シェアハウスに住むのは合理的な判断か (2014.5.6)
情報弱者のための家電量販店 (2014.5.2)
大物プロブロガーの誤算と敗因 (2014.3.22)
コストとリターンで学ぶ商売の基本 (2014.3.15)
自慢話をするなら、"迷惑料"を払うべし (2014.3.14)
大物プロブロガーが本当に伝えたいたった1つのこと (2014.3.4)
時間を売るポジションと人材マーケットの論理(2014.3.1)
有料メルマガにみるドヤ顔ノマドの限界(2014.2.24)
「雇用のミスマッチ」を考える(2014.2.22)
「勝ちが勝ちを呼ぶ、負けが負けを呼ぶ」という構造(2014.2.20)
なぜ、会議に貢献できないのか(2014.2.13)
出張で成果を出す(2014.2.10)
プロジェクトで成果を出す(2014.1.25)
長時間残業が減らない本当の理由(2014.1.11)
仕事がなくて暇な会社員(2013.6.30)
「上司に相談します」が口癖の担当者(2014.2.1)
個人主義者は会社勤めできるか(2014.1.26)
日雇い派遣に学ぶプロジェクトの本質(2014.1.18)
誰が"面倒な雑用"をするべきか(2013.12.30)
タクシーに未来はあるか -業界復活の切り札-(2013.12.21)
TV電話が普及しない本当の理由(2013.12.7)
就職活動の勝敗は10歳の頃に決まっている(2013.10.25)
『ちびまる子ちゃん』で学ぶ「教室内カースト」(2013.10.20)
なぜ、日本人の7割には中学レベルの知識もないのか(2013.9.22)
勤労の美徳と資本主義の強欲 (2013.9.21)
ウェブへの上場と不特定多数による評価 (2013.9.16)
仕掛けと手仕舞いの仕事論 (2013.8.31)
"この世にいらない人間"と動物的本能の暴走 (2013.8.20)
人間的魅力の効用と限界 (2013.7.28)
勤勉という美徳の終わり(2013.6.30)
勉強で得られる知識は、価値が低い(2013.6.22)
仕事が好きな人、嫌いな人(2013.6.1)
仕事に"専門的な知識と能力"は必要か(2013.4.27)
ビジネスでは、あまり努力しない方が良い理由(2013.4.20)
誰が「腐った人材」を養うのか(2013.4.13)
「パンを分け合う仲間」としての会社(2013.3.30)
なぜ、あの人は「本を読むバカ」なのか(2013.3.26)
「やればできる」の仕事論(2013.3.23)
なぜ、ユニクロの離職率は高いのか(2013.3.16)
若者よ、貯金は止めた方が良い(2013.3.12)
英語公用語化の真意(2013.3.9)
薄給の時代 、副業の損得勘定(2013.3.2)
株で勝つのが難しい理由 (2013.3.2)
残業を良しとする"村の論理" (2013.2.24)
お金を稼ぐ力、組織を泳ぐ力(2013.2.16)
「みんな」という名の不審人物(2013.2.9)
リスクヘッジとしての株式投資(2013.2.2)
勤労の国の幸福なサラリーマンたち (2013.1.27)
公務員の"駆け込み退職"騒動の本質(2013.1.26)
株式投資の「究極の目標」とは何か(2013.1.23)
シャープ株の売買で気付いたこと(2013.1.17)
"試練の場"としての株式投資(2013.1.14)
中村淳彦(著)『職業としてのAV女優』覚書(2013.1.4)
読書の費用を回収できるか(2013.1.4)
いかに「読むべき本」を確保するか(2013.1.4)
"紙本主義"の終わりとアマゾンのキンドル生態圏(2013.1.1)
信仰告白のビジネスモデル (2012.12.29)
iPhoneの防水ケースと家電量販店の終わり(2012.12.26)
なぜ、デートでサイゼリヤに行ってはいけないのか?
(2012.12.22)
ペニーオークション詐欺の教訓(2012.12.22)
汗で稼いだ一万円、投資で稼いだ一万円(2012.12.19)
実務に活かす株式投資(2012.12.15)
アウトソーシング時代の働き方(2012.12.8)
「飽きないこと」を仕事にする(2012.12.2)
ビジネスに活かす優先的選択(2012.11.27)
もしも世界が男女10人ずつの高校の教室だったら
(2012.11.25)
"ホームレス転落"という悪夢 (2012.11.24)
映画『シルク・ドゥ・ソレイユ』に学ぶ人材配置 (2012.11.18)
シュートを打つ人、パスに逃げる人 (2012.11.17)
若さゆえの飢餓感 (2012.11.17)
動物王国としての実社会 (2012.11.11)
人生を語る不誠実さ (2012.11.11)
映画『009 RE:CYBORG』覚書(2012.11.4)
なぜ、経歴を詐称するのか(2012.11.3)
愛は地球を救えない(2012.10.24)
労働貧困層と生活保護(2012.10.22)
ルサンチマンのある人生(2012.10.18)
世界は"不本意な職業"で溢れている(2012.10.15)
不本意な職業を受け入れる(2012.10.13)
僕たちは「格差社会」を望んだ(2012.9.24)
「人間好き」のファシズム (2012.9.17)
強者はデモに参加するか(2012.9.15)
撤退戦としての介護(2012.9.1)
「仲間外れ」の構造(2012.6.26)
反知性主義の国・日本(2012.6.24)
日本人の7割には、中学の教科書レベルの知識もない
(2012.6.23)
読書を実務に活かす暗黙のプロセス (2012.6.23)
教職に逃げる大人たち (2012.6.21)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)

2016.4.29 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ