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 会話のグラディエーション/恋敗物語(3)

 達人君は、「女性との会話が苦手だ」と言います。

 よくよく話を聞いてみると、どうも達人君が女性と話すことは、天気の話題に代表される世間話か、意を決した愛の告白しかないようなのです。

 だから、「こんにちは。いやぁ、近頃、寒いですね。実は、あなたが好きです。」みたいなチグハグなことになってしまうのです。

 本来、天気の話と、愛の言葉のあいだには、無限の話題が転がっています。

 学校や職場の話、本や映画の話、音楽や美術の話、身体や美容の話、学問や教養や人生観の話、食べ物の話…挙げれば切りがありません。

 色が少しずつ自然に変化していく様子をグラディエーションと呼んだりしますが、会話にもそのことが当てはまります。

 脳の中の膨大な記憶のストックから、相手が興味を持っている話題を切り取って、言葉にして口に出す。これが上手な人を、「コミュニケーション能力がある」と言ったりします。

 そして、会話がうまい人は、例えば、動物の話をしながらでも、相手に好意を伝えられるのです。

 また、ここでものを言うのは、結局、知性と教養(人としての嗜み)です。  後は、違うタイプの人と、様々な場面で、色々な言葉を交わして、場数を踏むことですね。

 こういう地道な「修行」を無視して、「女心をつかむ一発逆転の一言」などを追い求めるのは、ひどく無駄な行為に見えますね。   

山田宏哉記

P.S. 僕が「会話術」を指南するようでは、世も末です。

2005.12.30

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